Google+ 今書ける事: 心の井戸(いつも書きかけ)1

心の井戸(いつも書きかけ)1

相馬島がぼんやりと光る井戸  いつも書きかけ



その日、「はづき」は一個のみかんを目指して歩きだした。
両手を床について立ちあがると、オレンジ色の大きな丸い物体を見てそれに触りたくて一歩、また一歩と歩いたのでした。

始めて歩いたはづきちゃん。そこにいたのは色白で細見のお兄さんだった。
大きな畳が三枚ある部屋の一番奥の方には大きな大きな屏風があった。
その屏風の向こう側は仕事場との境の壁があり窓がある。その窓からは大きな機械の音がしていた。


ある冬の事、何やら椿油のにおいがする誰かの背中に負ぶわれている。毎日毎日負ぶわれていた。とにかく体が揺れる事が嫌だと感じていたはづきだった。そのうち板の間に下されるとほっとしていたのだった。

ただ、負んぶされている時に顔に受ける生暖かい風と、カラカラとうるさいけど不思議と落ち着く機械音と共に、ふわりと漂ってくる魚が焼ける香りは好きだった。
ガラがガラという音がする機会には、三枚の団扇が取り付けられていて、その団扇も回転していて、その下には、ぐるぐるとまわるチェーンに添って切りこみがある鉄製のでっかい切り込みの部分には鈍い光を放つ竹輪鉄が並んでいた。その下には炭が赤く熾っていて時々シューッと音を出す。
くるくる回る団扇と竹輪。炭の火であぶられる竹輪の焼き具合が均一になるように、すり身が着いたその鉄棒を右へ、真ん中へと動かしていた手は、祖母の手だったのだと後で知る事になる。体が揺さぶられていたのはそのせいだったのだね。


はづきはいつも一人だった。いつも。
いや、いつもお姉ちゃんといるのだけれどいじめられるから、逃げていた。逃げられない事もあったけれど、何につけても孤独りだったの。

誰かに好かれたくてしかたがなかったから、歩けるようになったはづきは仕事場という場所に土間を走って入って行くようになった。そこは「しごっば」という所なんだよ。
手からはみ出すほど大きいたわしを手に、石の床を磨くの。近くには大きなサメがたくさん並んでいる。
そこにはサメより小さい魚が木箱にたくさん入っている。
サメをさばいて茹でた後のお湯をお婆ちゃんが盥の中に入れるの。
そのお湯はザラザラしていて、独特な香りがするのだけれど仕事場の床にそのお湯をまいてタワシでゴシゴシすると、とっても綺麗になるの。
さいごに水をかけて床を綺麗にするんだよ。
はづきは仕事場のお掃除が大好きだった。
お婆ちゃんがにっこりと笑いながら「ありがとうねぇ。てんがらもんじゃ。」と言ってくれるから。だからそのお手伝いだ大好きだった。

薪が燃えるにおいがする仕事場。すごく広くてお魚があって天井が高くて油のにおいがして、蒸し器の湯気が立ち込めて、木が燃えるにおいがする、すごく面白いそこは、はづきが大好きな場所だった。


少し大きくなったはづきは、その薪を庭から仕事場に運ぶお手伝いをするようになった。
庭には大きな大きな井戸があった。
井戸の水だって、はづきは汲める。
汲むというよりは水を出せると言った方が良いかもしれない。
つるべはもう使っていない。
井戸には、上下に動かすレバーがあり、そのレバーに体重をかけると水が出るの。
一つ間違うと井戸の中に・・って事はないのだよ。今は蓋がしてあるからね。
蓋の隙間から井戸の水が見える。
井戸のまわりには、タライが置いてある。大きくてはづきの力では動かせないものもあるし、小さいのもある。バケツもたくさんたくさんある。

両手で持ってもその手からはみだすくらい大きな石鹸がバケツに入っている。
庭の真ん中に天高く聳える物干し用の上部がVの字になっている柱が2本立っている。物干し竿をVの字に乗せるための引っかけ棒が雨どいの近くに立てかけてあった。
はづきにしてみれば、大きくて広い庭。犬もいるし猫もいるし鶏もいる広い庭。

その庭にあるブロック塀の向こうからはお琴の美しい音色が聞こえてくる。
ピアノの音も聞こえてくる。
ブロックの向こうから大きな木の枝が、握手しようとと言わんばかりに伸びてきていた。



はづきはね、お母ちゃんとかお父ちゃんに褒めてもらいたいんだよ。
はづきは必至にお手伝いをする。
おりこうさんと言われたくてお手伝いをする。
純真な子供とはこういう子供の事をいうのだろう。

お母ちゃんの膝に乗りたくて乗りたくて出っ張ったお腹のお母ちゃんが座ったらすぐに膝に座った。けれども毎度毎度、なぜかお腹を突き出して膝から下ろすお母ちゃん。
けれど何も言えない小さい女の子、はづき。
傷ついた振りさえもしないはづき。本当は悲しいのに。
幼心に言ってはいけない言葉をかってに覚えてしまっている。
反抗してはいけないことをいつしか心得てしまっているはづき。

はづきのお母さんはやさしいんだ。
はづきのお母さんは、どこのお母さんより綺麗なの。
ばつきのお母さんは、何でも知っていて何でもできるの。
けれど、褒めてくれないね。はづきはお母さんに似てないね。
うん。

お婆ちゃんはいつもいつも一緒にいてくれるし褒めてくれるし、つばき油のにおいがするの。
お婆ちゃんは誰よりも優しいの。お婆ちゃんだけが優しいの。褒めてくれるの。


はづきの心の中には何種類もの井戸がある。
楽しい井戸、喜ばしい井戸、頑張る井戸、悲しみの井戸、苦しくなる井戸。くやしい井戸、怒りたくなる井戸、飛び込みたくなる井戸、情深い井戸、夢の井戸。落ち着く井戸。。。。。etc・・・。
それらの井戸の水は湧いたり引いたり乾いたりを繰り返す。繰り返す。繰り返す。ずっとずっと何度も何度も。汲み出す水の色も全部違うの。
はづきが持っている井戸の水はたまにだけれど目から流れ出る事がある。

はづきには2人のお姉さんがいる。いじめるお姉さんと綺麗だけれど冷たい態度のお姉さん。
お兄さんもいるけれどお国を守るお仕事をしているので家にはめったに帰ってこないから良くわからないお兄さん。

はづきはいつも家にいる人達を観察していた。
はづきはいつも病気だった。
はづきはいつも元気だった。
はづきはいつも「はいっ」と返事をしていた。
(マジ痛い子ぢゃなw)


はづき:「かみさまー、わたしはだーれー?どうしてここにいるの?」
夜になると必ずといっていいほどそんな事を心で思う変な女の子だった。

天井を見るといつも忍者が見えていた。(笑)
どうして忍者だと思ったのか?それは真っ黒な頭巾を頭からすっぽりかぶっていて、肩から刀の目貫が見えていたから。(まじかー?)本で見たんですかねぇ?
(忍者という言葉が出てくるのが面白い。今思うとね。)

迎えに来たの?神様のお使い?などと、はづきは真剣に思っていた。
(にゃーるほど、それかぁ・・w そういうことーw)

4歳のはづきの一日は忙しかったよ。
朝7時になる前に起きておにぎりを食べて、時計のネジを巻く。
ねじまきお仕事は定期的にやらないといけないの。ねじきらないよう、ねじ回しを使ってね、力を入れてぐるぐるっと回すの。ネジ穴は2つあるのよ。長い針と短い針のネジ穴・・だったのね。

さあそれからは裏庭に行って鶏さんのご飯に混ぜる貝殻を細かく砕いて2つに割ったモウソウダケの中に餌と一緒に入れるの。
それから犬達とお話をします。
犬は小さい子も大きい親犬もいるの。小さい子供の犬が床下に入って行ったら、はづきは床下に入って子供の犬を連れてこなきゃならないの。
犬達のご飯は大きなお鍋であげてるんだけど、みんなが食べ終わったら井戸水で洗うんだよ。

さあて、次は何する?

あ、そうだ。お婆ちゃんのお掃除のお手伝いだっ。大きくて黒光りしている柱のことを婆ちゃんは大黒柱と呼んでいたの。大黒柱は毎日雑巾で拭くんだよ。この家のまん真ん中にあってこの家の屋根を支えてくれているから、いつもきれいにしてあげなくっちゃねって婆ちゃんが言いながら磨いていたんだよ。
はづきが抱き着いても左と右の手が届かないくらい太い大黒柱さんは、この家のお偉いさんだった。


夜になるとはづきは大きな洗面器に新聞紙を広げて入れて枕元に置いて寝るの。夜中にげぇって食べた物をもどしてしまうからね。自分の事は自分でやらなくちゃ。


お隣のおじちゃんはね、ビートルっていう車に乗っててさ、はづきが唯一一着持ってる余所行きの服を着ていたらさ、カメラってやつで写真を撮ってくれたんだよ。
あの車は綺麗だったよ。うちの車って幌馬車みたいなホロ付きの車だったもん。
あのビートルっていう車に一度でいいから乗せてもらいたかったなぁって思ったけどさ、今思えば汚っない近所の子供をあの頃のビートルの新車なんかには乗せないわよね。
お隣の男の子っていつも靴下履いてたもんな〜はははははは(笑)
はづきはいつも裸足だったもん。
あー、それにしても子供の頃も忙しかったなぁ。



幼少期の頃を思い出したはづきが、はっと我に返った。

テーブルの上の丸くて軽い昔ながらの灰皿を自分の前に引き寄せて、目の前にいる男性を見る。
じーっと、見てみる。「ねぇ、気付いてぇ」そんな目で彼の目を見ている。

「おいっ、たばこ吸うの?」
「あ、うん、いいかな?」
「いいけどさ、いや、よくないけどね、一本あげるよ。はいっ。」

一歳年上の彼氏とラーメン屋にいた。

「ごめん、ありがとう。一日に2本くらいしか吸わないんだけどね。」

そう言いながらはづきはたばこを口に銜えた。彼氏は慣れた手つきで火をつけてくれた。
(なんだかこういうのってかっこいぃなぁ。テレビのワンシーンにあるわね)
(実はかっこよくも何ともないのに。若い女の子にたばこは似合わないわね。ほんと。)

忘れたいものを投げ込める井戸がそこ(たばこの中)にはあった。
いや、あると勘違いしていたのだろう。


いいなぁ、この人はきっと良い両親の元で良い家で育ったんだろうな。何となくそう思う。
身ぎれいにしているし、何だろうか、見るからに何か自信を持っているわ。
私には無い何かをしっかり持っている人なんだな。そう思った。

ほどなくしてラーメンを食べ始める。
男性と2人きりでラーメンを食べたのはこの時が初めてだった。
というか、彼氏と呼べる人はこの男性が初めてだった。

夕方になり、何かが入っている箱をいただいた。
「じゃ、またね。またね。」
家路に着こうと思ったら何と、バスがいないではないか。焦る。
(やばいよやばいよ。これ以上遅い時間に家に帰ったらどれだけ怒られる事か。)
タクシー乗り場に行ってみる。
タクシーの運転手さんにちょっと訪ねてみた。
「あのぅ、12キロくらいの場所までタクシーに乗ったとしたら料金は高いですか?」
若い若い御嬢さんが声をかけると、タクシーの運転手さんがやさしい口調で答えてくれた。

「お嬢ちゃん、いくら持ってるの?」

はづきは正直に「あの・・800円しか持っていないのです。」と言った。
タクシーのおじちゃんが言った。
「うん、いいよ。その800円で家まで送ってあげるよ。」

私はこの時にタクシーの運転手さんに好感を持ち、いつかいつの日か私もこういう事が言えるような大人になろうと思ったのでした。

家に着くと裏からこっそり入った。
彼氏からいただいた箱を開けてみた。ワインカラーの服が入っていた。
めちゃくちゃ嬉しい。けれど私に似合うかしらん?この服と合うスカートもズボンもないなぁと思う。
それもだけど、この服どうしたの?と母に聞かれたら何て答えよう・・。
嬉しさと一緒に不安もよぎる。

可愛いけど何だか可哀そうな娘。そんなはづきは幼少期の不安をかかえこんだまま青春の時を過ごす事になる。

たくさんの人に傷つけられながら、たくさんの人に助けられながら、たくさんの良き友人を得ながら。






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4才


「雷のばか!」
空が怒鳴りだすと私は応戦した。物心ついた頃から空との対話を楽しんでいた。

ゴロゴロ~ビャシャーッ!
「だめでしょう!大きな声だしちゃ!かみなりのばかー!」

降水量は無いものの空の雲が低くたれ込めていて自分の手が届きそうだったその日、手には赤い水性インクペンを持っていた。(フェルトペンとか水性マジックって書きたいのにぃ、商標登録?って思うと書けねぇやんけぇ!)
家の外壁から道路側に突き出している商品棚と冷蔵庫を兼ねた棚の横は真っ白だがところどころ錆びがきていて白い塗装が剥げかかっていた。

えーっと私のなまえは・・は・づ・き 
んーと、きって最後はどっちの「つ」?
あー・・間違えたぁ。



あれ?こう?

そんなことをぶつぶつと独りで言いながらショーケースの横の部分に文字を書いていた。
いわゆる落書きってやつ。

お姉ちゃんが持っているノートが欲しいけれど私は買ってもらえないから、地面に石で描くか書ける場所を探して何かを書く、描く。

お姉ちゃんの机の引き出しを引き出し、その裏側に描く。ここならみつからないしと。

落書きは自分さがしの第一歩なんだよ。
絵も言葉も同じく、自分が何者なのかを知りたいから書いていたのね。
答えなんてないのに(笑)


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20代

あー、そうだ旦那起こさな。「起きてー。」
「ねぇ、朝だよ。朝ごはんできてるよー。」と夫を起こすと、「え?いいよぉ、いらない。食べる時間があったら寝ていたい。」

あ、あら、そうですかい。
幸せな普通の結婚生活を思い描いていたのに、残念なこったい。
ご飯とお味噌汁とベーコンエッグと納豆・・あたしの日ご飯は朝ごはんと同じメニューになるのぇ。
いいよいいよ。もうっ!二度と朝ごはんなんて作らん!!

結婚生活の始まり。


さてと、家の事やったらお弁当を持ってバイクで走って持っていってくるか。
その帰りにはバイク屋に寄って・・・。

バイクってやっぱいいねぇ。うん、いいよ。
すごくね、いいんだ。私のパートナーはバイクだな。うん、そうだよ。それしかねぇんだよぉ。

最初の彼氏だったらどうだったんだろうなぁ。
多分「おはよー、おー飯かぁ。うまそうだー!いただきまーす。」なーんてね、言ってくれてたかもなぁ。

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30代

「はづきぃ、あんたっておもしろいね。そーんな小さい頃の事覚えてんの?」
同級生の友人に語りかけた。

はづきは、「そうなんだよ。びっくりするくらいね。まだ自分で立てない時に湯壺に入れられて洗われている時の事もさ、覚えてんだよねぇ、あたし。あれはきつかったわー。目ぇ痛いっての。」と笑った。

さつきは、落ち着く井戸をはづきの話に求めていた。

さつき「ねえねえ、あたしもさ小さい時の事覚えてる事があるのよ。それがね私の祖母って若い時に亡くなっちゃってんだけどさ、あたし何度も見てるのよ。近くでさぁ。美しいお婆ちゃんなんだけどね、近くにお爺ちゃんがいるのがこわくってさぁ。」

はづき「え?生きてるお爺ちゃんなの?」

さつき「違うわよ~。お爺ちゃんって言っても曽祖父なのよ。腰の刀が気になっちゃってさぁ・・。」

えーーーーーーーーーーーー?!だよ。まじぃ?えーーーっ?だよ。

と、はづきが驚くのを見てさつきが続けた。

「ってさぁ、さつきもそんな感じじゃない?何かさぁあたしたちって似てない?そういうとこ。」

さつき「霊感ってやつぅ?あたしは無い無いー。」

はづき「だってさぁ、さっきあたしたちの横を通り過ぎてった男の人さぁ、さつきも目で追ってたよねぇ。あの人ってこの世の人じゃなかったわよぉ。」

さつき「え?まじ?あの人普通の人間でしょう?普通に生きてる人だったわよー。」


ギクッ!!!!!

そ・・そんな・・。いやいやいやいや無い。この世には11次元まであるとは言っても、霊なんて存在しないし。

それにおかしいでしょう。体なんて土ん中か今じゃ火葬って言ったってでっかい電子レンジでチーン!で骨も少ししか残らないのよ。体は無いんだから見えるはずは無いの!!

はづき「ほーら、始まった。人ってのはねえ、見えないはずのものが見える時ってのが一番こわいと感じるものなでね、それを否定するために必死に喋るものなのよ。ほほ。あんたも認めなさーい。」


そんな会話をした事があった。

はづきは生まれたその瞬間からこの世の景色を覚えているみたいだった。そんな話しっぷりで、良く聞いていると本当にはづきが語る天井だったり、御産婆さんの顔が見えてくるような錯覚に陥るほど。

(うー、ぶるぶるっ)

はづき「さつきぃ、あたしさぁいつまで生きられるんかな?」
さつき「はづきが生きたいって思ってればね、おばあちゃんになるまでだよ。」


心の井戸(いつも書きかけ) つづく




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