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心の井戸(いつも書きかけ)その6


「おかえりさん」

「・・・ホッホッホッ」

庭に出ていた犬が勝手口から家に入ってきたら必ず挨拶をするの。

どうしてかって?

犬でも猫でもね、言葉がわかるからだよ。
お家に入ってきたら、素通りで自分の部屋に行くような子にしたくないから(笑)

「あんたって変よね。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

少し記憶が前に飛んだ。

「にゃ~」
 
「とら〜おかえりさん。はい車に乗って~。」と、ドアを開ける。
とある駐車場、ここでちーんまい君に出会った。

捨てられたのか、おまえも。親いないのか?
あたしと同じだねぇって言いながら私のジャケットのポッケにすっぽりと入った猫。

自由な猫はいつしか私の恋人みたいになっちゃった。
何処に行くにも一緒。いつもね、一緒にいられる自分以外の命ってとこかな。

知らない町に行っても、ちゃんと車に帰ってくる猫である。
ふーてんだねぇ、あたいもおまえも。名前はトラで決まり。

「いい子だね~君は。私と大違いだわ。」って良く笑った。
私が風呂に入ってるとニャ~って言って一緒に風呂に入る変な猫だった。


そう言えば君との初めてのドライブは工業団地の中だったわね。
窓を開けて走っていたら君、窓から飛び出しちゃったんだよねぇ。

慌てて車を停めて君を抱っこして「生きてるか?おいっ!おいっ!」って言いながらアパートに戻ってさ、動物病院って頭も金もなくって4つ折りにしたバスタオルの上に寝かせて朝まで撫でてたよね。

朝日が眩しいなぁって思ったら君がパッチリ目を開けてさ、「にゃっ!にゃー!!」って鳴いてさ。
もうあたし嬉しくて嬉しくて、胸の中に抱っこしてそのまま寝ちゃったんだっけか。

それからは車で走る時に窓を開けてても君は飛び出さなくなったんだよね。
「すごい賢い生き物だね、君は。恐くて痛い思いをしたら二度と車なんか乗るもんかってごねるんじゃないかと思っていたら、窓から飛び出さなきゃいいんだってな感じでしっかり学んだんだもん。えらいえらいっ!」

名前があるんだから名前で呼んでくれにゃいか?君、君ってさぁ。キミ悪いにゃ。

「そうだ。そうだねぇ。とら。」

とら〜。

・・・・・・・・・・・・・・・・。

(とら?今私の足元に布団の上にピョンと下りたのはトラ?君なの?)

(そうだよ。何やってんのこんな真っ白い部屋のベッドの上でさぁ。しっかりしなよ。)

確かに感じたわ。今。とらがいたよ。いる。今いる。足元にいる。私に話しかけてきているわ。確かに。


私のベッドからそれほど離れていない若い女性が声をかけてきた。
「ねぇ、今誰か来たの?」

「うん。猫がね。昔飼ってたっていうか昔の同居猫がね、多分。。。」

その女性の顔を見る事はできない。
彼女も私の顔を見る事はできない。

なぜなら、ふたりともベッドの上で起き上がる事ができないからだ。

女性「ねぇ、さっきの看護師ひどかったね。」

さつき「うん。ひどかった。多分私の意識はまだ朦朧としててさ、理解していないって思ったんでしょうよ。」

女性「あー、わかる。私もそうだったわ。あの女性看護師の声は忘れられないくらい憎いわ。」

さつき「そうね。乱暴だね。けど仕事が大変なんだろうね。私腰が痛かっただけなんだけどね、枕まくらーって言いっ放しだったし。」

女性「うん、わかるよ。使えないってわかってたら言わないものね。わからないから枕欲しいって言ってるのにね。残酷だね。」

さつき 少し笑って泣いた。

看護師に「はい枕!」
ドンッてベッドの横に置いかれた。
看護師「どうやって使うのかしら?」
看護師のきつい声が耳にこだましている。


さつき「教えてほしいよね。どんな状態で寝かされてるかくらいさ。」

女性「うん。ほんと。お名前聞いていい?」

さつき「いいよ。さつきって言うの。よろしくね。」

女性「そっか、私マリっていうの。よろしくね。」

互いに顏を見る事もできないけれど、ほっとする存在だった。

さつき「ねえ、聞こえる?バイクの音。うちの旦那来たわ。」

マリ「聞こえないよ。ほんとに来たの?」

さつき「うん、ってか、あらら?そこのベランダから顔出して笑ってるわよ。」

その時、来た。


「大丈夫?」

そう聞かれて肯く。


「あなたが来たの分かったわよ。バイクの音したもの。」

さつきの夫「そんな訳ないよ。駐車場はめちゃくちゃ遠いんだよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

(そうか。)

(そういえばトラどこに行ったかな?)

とら・・・・・・・・・・・。


私のトラくん。フーテンだから、ふらりとどこかに行っちゃったかな?。



真っ白い部屋の天井はあまりにたくさんの色がついた蠢くものでいっぱいだった。


真っ暗闇の井戸は天井の片隅で大きな口を開けている。

そっちには行きたくないな。
せめて美しい色の井戸のお口で、水先案内猫がいればね、行ってもいいかな?って思うのにさ。

どうしようかな?私、どういう役をどう演じればいいかしら?医者の前では演じて見せるわと強い意志を確認しながら目を閉じた。

「あなた、もう帰っていいよ。気をつけてね。」
(こんな喋り方って私らしくないわね。不思議だ。心って。)


「おかえりさんって言ってくれないか。とらさん。」

いつかね、あのアパートに戻ったらさ、トラさんが「おかえりさんにゃ〜」って鳴くってのどうかな?戻りたいよあの頃に。あの時のあのアパートに。
あのアパートに帰るにも、あの場所にもう建物なんて無いんだよね。きっと。。


お帰りを言う場所も人も君もいなくなっちゃったのかな。ちょっとそんなのって寂しくないか?心の中で一人芝居をしているのか希望を持ちたくてもがいているのかとにかく心が温まる結末をさつきは望んでいた。

井戸の奥深いその場所は真っ暗闇だった。



心の井戸、いつも書きかけ
つづく








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