「なんかさ、岸からどんどん離れていってない?」ちい子が言った。
はづきとさつきが目を合わした時、サーファーのひとりが近くで叫んでいる。
「君らさー、ずいぶんと岸から離れてるよー。大丈夫なのー!!」
??え??
やっぱそうだよね。だよね。三人の胸中は同じだった。
「あたし浮き輪いらなーい!」ちい子が言う。
あたしもー! あたしもいらなーい!!
って・・・みんな浮き輪いらないになった。
浮き輪を浪間に放置して岸に向かってクロールで泳ぐ泳ぐ。
離岸流は速いんだよ・・・。やばいやばいよ。
泳ぐ事約30分。いや、ほんとうはもう少し短かったのかもしれない。
恐怖の時間は長く感じるのだよ。
三人とも岸に着いた。
「ひぇ~疲れた~!」「あたしも~」「うちも~」
(三人とも泳げて良かったわね。)
「もう~しんじられなーい、こんなに流されるとかあり得なーい。東シナ海だったら潮の流れが分かるけど太平洋側ってわかんないもんねぇ。にしてもあのサーファーさんがさぁ、心配してんだったらサーフボードに掴みなさいってくらい言えないものかね。」さつきが言った。
ま、無事に岸に着いたんだからさ、うら若き命が3つ救われたんだからさ、良しとしましょうよ。
ってな感じで三人娘は笑って砂遊びに夢中になった。
陽が暮れる頃、砂を砂で洗い流してからシャワーをさっと浴びて帰路に着いた。
ちい子
「ねぇ、あの時さぁ浮き輪捨てなかったら流されてたよね。黒潮に乗ってさぁ太平洋に流されてたよねぇ。」
さつき
「そうね。何であんな無茶ってか、考えがなかったんだろうねぇ。こっちの人は言うほど海が好きって感じでもないんだよね。まあ沖縄の海だからね。現地の人は行かないわね。観光で来てる人くらいよ。こんな暑くて肌が焼ける海に行くのなんて。」
はづき
「って、それは沖縄の話やんか。あの宮崎の海の話はどこいったー!?」
はづきの話を電話で聞きながら、さつきはコーヒーを飲んでいた。
目の前にはちんまい雄猫がいる。
「いやいや、あの頃はバカかったからさ、何でもできたのよ。この年になったらって、あたしは帰郷した時には海に行ってるわよ。たった一日しか行く暇ないけどさ。」
「にゃ~ん。」猫が呑気に鳴く。
______
さてと、この男どうしてやろうか・・・。
全く、・・・私がいない間に・・・。何?連れ込み宿になってたの?
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!まじかよ。終わったな。ああ。終わった。
終わらない?どうして?
☆☆
「ねぇ、お弁当のおかず20個はちっこいタッパーに入れて冷凍庫にしまってあるから、ご飯だけ炊いて持ってってね。」はづきは旦那さんにそう言って郷里の店の手伝いに行く。
「お弁当、どう?冷凍から解凍したおかずは不味くない?」
「いや、別に。まあ味は落ちるけどね。」(旦那)
はづき) 「ねぇ、何年も別居生活する事になってさ、せっかく一緒に住めるようになったのに私が実家の手伝いに行ってるとさ、なんか寂しくない?」
「いや、まぁひとりでいるのもたまには悪くないなぁって思うよ。」(旦那)
はづき) 「そう・・そうなんだ。私は寂しいけどなぁ。」
そんな会話をしていた。はづきはこの時も多分愛情に飢えていた。
さあ、どうしたものか・・・・・・。
あのさぁ、そんなさあ、女関係とかさあ、他人事だったよ。ったくっ!!
男は掌の上の独楽のように遊ばせておけば良いなんて、そんな悠長な事を昔の人はよう言ったものねぇ。
おめかけさんがいても平気だった訳じゃなくて平気な振りをしていただけかもしれないよな。
ヴー。
チャラララララ~♪携帯電話・・鳴ってるよ。だんなさん。
夫「あ、ちょっと・・鬱の子なんだ。相談にのってあげ・・」
電話から女の子の声がする
女「私、飛び降りるからっ。だって、だって、好きって言ったじゃない!」
女「あ、下にパトカー来てる。消防車もきてる。」
はづきは「え??」 @@である。
はづき「何??聞こえてますが??あのぅ、受話音がすっげぇ普通に聞こえていますけどぉ???旦那さん。」
はづきの心(私、母の看護で疲れて帰ってきたばかりなんですけど。
しかもまた看護で行かねばならんのですけど・・。)
「ちょっと、携帯貸して!」とはづきは夫に言った。
夫はオロオロしながら携帯電話をはづきに渡した。
はづき「で?飛び降りたいの?飛び降りれば?どうでもいいけどさ、うちの旦那の事好きなん?」
電話の向こうの飛び降りたいという女
「う・・うん。」
はづき「あ、そう。好きなんだ。いいよ。あげるよあんたに。飛び降りてもいいしどうでもいいけど?」
はづきはそう言って携帯電話を夫に渡したのだった。
あーあ、やってらんないよ。ったくっ!!何なの?
ったくっ!!天井を見上げた。
心の中に空っ風が吹きすさぶ。
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「ゆう子ぉ、どうしたもんだろかぁ!!ひどいもんだよー。」
ゆう子「えーっ?まじで?そらいかんいかん!いかんよ。許されんわ。けど、実はあたしも浮気してるんだよねぇ。旦那にはまだバレてないとは思うけどさ。」
はづき「何?なんだと?そんな事しちゃいかんよ!!ひとりもひとりもかってな事ばっかりしてさっ!」「いいかげんにそういうことはやめなさいっ!」
はづきはゆう子にそう言いながら泣きたくなった。
底なしの井戸のまだまだ浅い部分にはづきは居たようだ。そこはまだまだ浅いところだ。
もしかしたら簡単に出られる井戸かもしれない。
落ちない井戸に作り直せるタイミングだったのかもしれないとはづきは後に思うのだった。
この時点で答えはまだ出ていない。
つづく
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ゆう子とはづきはいつもバイクで走った。走った。
20代女子のバイクの走りは半端ない。
休憩?んなもの無い。目的地までガスが持つなら走る。
ゆう子はモテモテさん。とても美しい娘だった。
はづきはゆう子と観光名所まで良く走る。道は山に上がる道でいろは坂までとは言わずとも劣らない曲がりくねった道をすっ飛ばして走る。
2人で木陰のベンチに座って、つなぎを上半身だけ脱いで腰に巻き付けてしばし休息を取っていた。
二人の会話はいつも男子の話と将来の話だった。
ゆう子「ねぇ、10年後ってさ、どんな暮らしをしてんだろね~。」
「今の彼氏と結婚してんのかな?」
はづき「ゆうこー、どの彼氏なん?」
ゆう子「若い方だよ(笑)どっちもやさしいけどさ、あたしって贅沢なんだー。」
はづき「ほんとにもう、あんたさぁ男何人泣かすんだよー。」
良く笑った。良く走った。良く遊んだ。良く仕事した。
そんな20代の女子だった頃を思い出しながら。
白い天井を見上げていた。
まさかゆう子は自らこの世にさよならするとは白い天井を見上げているこの時には予想もしなかった。
道は自分で選べる。道はたくさんある。歩くのは自分の意思と足。他の誰も代わって歩くことなどできないものよ。決めるのはあなたなんだから。歩くのはあなたなんだから。
心の井戸(いつも書きかけ)つづく
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